がん治療中のより良い生活・ケア

がん患者さんが抱える心の問題と専門的な支援…がんと「こころ」①…

小川朝生(おがわ・あさお) 国立がん研究センター東病院・精神腫瘍科長、同臨床開発センター精神腫瘍学開発分野長

2015年11月25日

がんと告知されて動揺しない人はいません。ほとんどの患者さんが、突然の告知によるショックや不安に押しつぶされそうになります。がんそのものを治療するということと同様に、多くのがん患者さんが抱える心の問題をサポートし、ケアをすることの重要性が認知されつつあります。こうしたがん患者さんやご家族のサポートに国内でも早くから取り組む、小川朝生先生に話を伺いました。

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近年、様々な新薬や治療法の開発が進み、効果も上がっているがん治療。検査技術も向上していることから、初期がんの場合は完治する可能性も高く、その意味では患者さんやご家族の心の負担が軽減されているとも言えます。それでも、がん告知を受け止めるのは容易ではありません。

一方で人間の体は、強いストレスを受けても時間とともに回復しようとする力ももっており、患者さんの多くは、担当医と十分に話し合ったり、ご家族と助け合ったりしながら、動揺やショックといったつらい精神状態を徐々に乗り越え、前向きに治療に向かっていきます。

がんの告知を受けて、頭の中が真っ白になってしまうということは多くの患者さんが体験することです。一時的にひどく動揺したり、落ち込んだりしても、それが永遠に続くことはありません。通常は数週間程度で落ち着いてくるため、こうした時期に心配し過ぎたり、自分を責めたりしないことです。まずは、きちんと食べて眠ること。極力、これまでの日常を崩さずに、基本的な生活を続けましょう。それはご家族も同じことで、無理な看護で体や心のバランスを崩してしまっては元も子もありません。

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しかし、なかにはうつ病や適応障害などの症状を発症する患者さんもいらっしゃいます。そういう患者さんたちの心と体のケアのために、1960年代、アメリカで誕生したのが、精神腫瘍学(サイコオンコロジー)という学問です。乳がんの全摘手術を受けた患者さんの心と体の問題をいかに支えるかという課題からスタートし、80年代になると、がん告知のショックを和らげるという点に重点が置かれるようになりました。

そして、現在では、認知症の患者さんや在宅の問題など、様々な面でのサポートを目指しています。日本でも、2007年の「がん対策基本法」の施行をきっかけに、こうした取り組みが推進される傾向にあります。

患者さんが精神腫瘍科を受診されるきっかけで最も多いのは不眠です。次いで適応障害、ご高齢者に多いせん妄、認知症などが続きます。精神腫瘍科は、一般の精神科とどこが違うのか――。一般的精神科が様々な患者さんを診るのに対し、精神腫瘍科は、がん患者さんに限られるということです。がんに起因する患者さん、ご家族も含めた心の問題や暮らしに関わる様々な問題について、これから行う治療も見据えながら、ケアや治療を進めていきます。

入院患者さんの場合、必要に応じて主治医から要請があり、それを受けて我々の診療が始まります。これに対して外来の患者さんの場合は、自覚症状を感じて自ら受診されるケースがほとんどですが、がん治療の主治医に相談すれば、その内容は精神腫瘍科に回ってくるシステムになっています。

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先に述べたように、人間は強いストレスを受けて一時的に動揺したり落ち込んだりしても、回復する力をもっています。そのために信頼できる身近な人に接したり、患者会などに参加して同じ境遇の人に話を聞いてもらったりするのもいいでしょう。また、仕事や趣味に打ち込んで病気を忘れる時間をつくり、ストレスと上手に付き合うようにすると、「病気であっても病人でない」前向きな日常が送れるようになります。

しかし、それでも落ち込みや不安、意欲の低下や不眠などが続くようであれば、1人で悩んでいないで、遠慮なく専門家に相談してみてください。ケアや治療を行うところは、病院によって「精神腫瘍科」「精神科」「心療内科」など、診療科名が異なり、また緩和ケアチームというサポートチームに所属している場合もありますが、ほとんどのがん診療拠点病院ではこうした専門的なサポートを行っています。主治医に相談すれば、専門部署に取り次いでくれたり、紹介してくれたりするはずです。

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どんなときに相談に行けばよいかについては、上記の落ち込みのチェックリストを目安にするという方法もあります。

vol.7_ganQOL_05小川朝生(おがわ・あさお)
1974年、神奈川県生まれ。現在、国立がん研究センター東病院・精神腫瘍科長、同臨床開発センター精神腫瘍学開発分野長、日本緩和医療学会理事などを務める。様々ながん種、病期のがん患者さんを対象とする効果的介入法の開発を行うと同時に、講演活動なども積極的に行っている。(取材時現在)

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