ドクターコラム:がん治療の現場から

第5回「肝臓は体の『製造工場』かつ『ゴミ処理場』」

menschliche leber私の専門が「消化器内科」であることは、前回ご説明させていただきました。消化器とひと言で言ってもさまざまな臓器がありますが、今回はその中でも「肝臓」についてお話しましょう。

肝臓のがん「肝がん」は、日本では患者数が6番目に多いがんです。肝がんについては別の回で改めてお話しますので、その前に肝臓がどのような臓器なのかを知っていただければと思います。

みなさんは、体の中で肝臓がどんな役割を果たしているか、ご存知でしょうか? まず挙がるのは、おそらく「アルコールの分解」ではないでしょうか。では、それ以外は? 改めて聞かれると、意外と思い浮かばない方が多いのでは……と思います。

最初にわかりやすく例えてしまうと、肝臓というのは『「製造工場」であり、「ゴミ処理場」でもある』、そんな臓器です。つまり物を作り、かつ不要になった老廃物を処理する、その両方を行う場所である、と。
どうでしょう、なんとなくイメージできましたか? では、もう少し詳しくご説明していきますね。

肝臓は、高性能な製造工場

まず、肝臓の“製造”という役割についてご説明しましょう。

人間は基本的に食べ物から栄養を摂取しますが、栄養は消化器の中でもおもに小腸から吸収されます。しかし、単に吸収しただけでは人間の体の中で使える形にはなりません。例えば家を建てる時に木材を使うとしても、丸太のままでは使えませんよね。つまり、材料を体内で使える形に“組み立てなおす”……肝臓はそんな製造工場の役割を果たしているのです。

肝臓で製造されるのは、タンパク質や糖質、脂質、ビタミン、ミネラルなど、どれも私たちの体を構成するために欠かせない要素です。そのため、肝臓が正常に機能していないと、糖尿病や肝性脳症など、さまざまな疾患を引き起こします。

貯蔵と分解も、肝臓の大切な役割

工場には大抵「倉庫」があります。肝臓も同じで、血中の糖を調節し、ブドウ糖からグリコーゲンを作って肝臓に蓄える働きがあります。血糖値が下がってきた時には、グリコーゲンからまたブドウ糖に変えて血中に放出することで、体内の血糖値を安定させるのです。

今でこそ人間は、比較的自分の好きなときに食事をとることができます。しかし自然界の動物は、定期的に食事にありつけるわけではありません。そのため、肝臓における“貯蔵”というシステムは、とても重要な役割を持ちます。

それと同時に、“体にとって有害な物質”を分解し、体外に排泄する、ゴミ処理場のような働きもあります。有害な物質として代表的なものはアルコールでしょうか。お酒は嗜好品ではありますが、体にとってはあくまでも“有害物質”なのです。

そんな肝臓は、体内にある全ての臓器の中で、一番重い臓器です。肝臓の重さは体重の約2%と言われています。体重50kgの人だと、肝臓は約1kgということになります。

肝臓は「門脈」と「肝動脈」という、2つの大きな血管が通っています。門脈には小腸からの栄養を運ぶ血液が流れ、肝動脈には酸素を供給する血液が流れています。肝臓の血液処理能力は、1分間で肝臓1gあたり1mlと言われています。つまり、体重50kgの人だと、1分間に1Lもの血液が肝臓に流れ込み、処理されていることになります。

成人男性の場合、心臓が1分間に送り出す血液の量はおよそ5L(リットル)。その5分の1もの量が肝臓で処理されていることを考えると、肝臓の血液処理能力の高さが実感できるのではないでしょうか。いわば“大工場”ですね。

肝臓が私たちにとってとても重要な臓器ということがお分かりいただけたでしょうか?こういう大切な臓器だからこそ、一度病気になると大変なことになってしまうのです。
次回は、代表的な肝臓の疾患についてお話をしたいと思います。

moriyasu森安史典(もりやす・ふみのり)1950年、広島県生まれ。75年、京都大学医学部卒業後、倉敷中央病院、天理よろづ相談所病院、京都大学医学部附属病院で勤務。米国エール大学への留学を経て、96年、京大助教授となり、2000年より東京医科大学病院消化器内科主任教授(現職)。最先端技術を導入した肝臓疾患の診断、治療に定評がある。09年より瀬田クリニック東京非常勤医師として、がん免疫細胞治療の診療にも取り組む。趣味はゴルフ。(取材時現在)

東京医科大学病院消化器内科ホームページ
http://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/syoukakinaika/index.html
瀬田クリニック東京ホームページ
http://www.j-immunother.com/group/tokyo