ドクターコラム:がん治療の現場から

第6回「肝がんの原因の7割を占める『ウイルス性肝炎』とは」

2015年7月27日

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肝臓の疾患として代表的なのは「ウイルス性肝炎」と「生活習慣病による肝障害」、この2つです。
今回は、意外と知らないことも多い、「ウイルス性肝炎」についてお話をしたいと思います。

感染に気をつけたい「急性肝炎」

ウイルス性肝炎とは、その名の通りウイルスの感染により肝臓が機能障害を起こしてしまう病気です。引き起こすウイルスによりA型、B型、C型、D型、E型などに分けられています。A型・E型肝炎ウイルスは主に水や食べ物を介して感染し、B型・C型・D型肝炎ウイルスは主に血液・体液を介して感染します。日本において、よく知られているのはA型、B型、C型でしょうか。この3つのウイルスが圧倒的な比率を占めています。

このウイルス性肝炎は、急性肝炎と慢性肝炎の2つに大きく分けられます。
急性肝炎は、外界からウイルスが入ることで、一定の潜伏期のあと激しい炎症を一気に引き起こします。体はそれに対し抗体を作り、ウイルスを体から排除していくのですが、まれに悪化して劇症肝炎を引き起こし、亡くなってしまう方もいらっしゃいます。
症状としては、発熱や倦怠感、食欲不振、吐き気、嘔吐などが最初に現れます。かぜの症状にも似ているため、肝炎と気づかない人も多いようです。症状が進むと尿の色が濃くなり、黄疸が出てきます。

日本で起こる急性肝炎の多くはA型肝炎です。A型肝炎のウイルスは、感染者の糞便に触れた手で水や食べ物を触ることでうつる「経口感染」で広がります。集団生活で広まりやすいウイルスだと言えるでしょう。牡蠣などの食品から感染することもありますし、小児がかかることが多いことも特徴のひとつです。

B型肝炎は、後で説明する慢性B型肝炎と急性B型肝炎に分けられ、急性の場合は大人になってから感染・発症する場合がほとんどです。B型肝炎ウイルスは感染力が強く、性行為によって感染するので注意が必要です。

何十年にもわたりウイルスを持ち続ける「慢性肝炎」

では、慢性肝炎というのはどのような病気なのでしょうか?
慢性肝炎というのはB型肝炎とC型肝炎に代表されるように、感染してから何十年にもわたってウイルスを持ち続ける“キャリア”になる病気です。

B型肝炎の慢性肝炎の場合、ほとんどの場合は母子感染です。これを「垂直感染」といいます。
胎児は免疫を作れないので、お母さんの持つウイルスが出産の際に自分の体の中に入ると、そのままウイルスが異物だと認識されずに増殖してしまいます。生まれた時から持っているものだから、ウイルスであっても自分のタンパク質だろうと思ってしまうわけですね。

しかし成長するにつれ、人間の体の中ではさまざまな抗体が作られていきます。そうなると、だんだんと「これは自分のタンパク質ではないぞ!」と気づく。思春期から20代くらいまでの間にできる抗体がウイルスの増殖抑制をしてくれたりするのですが、
最終的な抗体ができるまでにはまだまだ何十年もかかるのですね。
そういう長い戦いが体の中で行われるのが慢性肝炎の特徴です。もちろん、最終的に抗体ができて治る人もいれば、途中でウイルスの力が強くなり、肝硬変になってしまう人もいる。
感染してから、肝障害で死亡するまでの平均年数はなんと約40〜60年。それがウイルス性慢性肝炎という病気の大きな特徴です。

ただし、1986年にB型肝炎の母親から生まれてきた子供に対する予防ワクチン接種が開始されて以来、母子感染は激減しています。
C型肝炎の場合、垂直感染はしません。ほとんどが外的要因による感染で、これを「水平感染」と言います。
日本におけるC型肝炎患者さんの多くは、かつて学童期に予防接種の注射針の使い回しが行われていたことでの感染です。また、輸血による感染も引き起こされました。
これらは社会問題にもなりましたし、対策が行われたことで現在は感染が急激に減っています。
C型肝炎のキャリアの多くは10代から30代で感染し、そこから肝硬変・肝がんになるまで平均で30年かかると言われています。従って、40~60歳で発症する方が多い。
こちらも非常に長期にわたる、慢性的な疾患ですね。

日本において、肝臓がんの患者さんのうち約7割が、ウイルス性肝炎が原因で発症しています。知らないうちにキャリア(保菌者)になっていることもありますので、まだ受けたことない方は一度「肝炎ウイルス検査」という血液検査を受けてみることをお薦めします。仮にウイルスに感染していたとしても、それが早めに分かれば、疾患発症を抑えたり遅らせたりするために、様々な手段を講じることが出来ます。

moriyasu森安史典(もりやす・ふみのり)1950年、広島県生まれ。75年、京都大学医学部卒業後、倉敷中央病院、天理よろづ相談所病院、京都大学医学部附属病院で勤務。米国エール大学への留学を経て、96年、京大助教授となり、2000年より東京医科大学病院消化器内科主任教授(現職)。最先端技術を導入した肝臓疾患の診断、治療に定評がある。09年より瀬田クリニック東京非常勤医師として、がん免疫細胞治療の診療にも取り組む。趣味はゴルフ。(取材時現在)

東京医科大学病院消化器内科ホームページ
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瀬田クリニック東京ホームページ
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