ドクターコラム:がん治療の現場から

第8回「肝臓がんの進行は女性より男性のほうが早いって本当!?」

2015年8月31日

kangan1

 

今回は、「肝がん」についてお話しましょう。

肝臓にできるがん「肝がん」は、もとから肝臓の細胞にできる「原発性肝がん」と、別の臓器から転移した「転移性肝がん」に大別されます。

まず最初に、原発性肝がんについてご説明します。
前回前々回とがん以外の肝疾患についてお話しました。これは、今からお話する原発性肝がんの話と重要な関わりを持っています。
なぜなら、健康な肝臓に原発性肝がんができることはまずないからです。

原発性肝がんの場合、必ず、ウイルス性肝炎や肝硬変など、肝障害が背景にあります。例えばウイルス性肝炎の場合、長期にわたって細胞の炎症と再生が繰り返される中で、細胞が「線維化」を起こしていきます。私たちが傷を負った時に「傷痕」ができますよね?
細胞に傷がつき、かさぶたのようになった状態が「線維化」だと思ってください。

炎症が進み正常な肝細胞が減り、肝臓が線維化し硬く小さくなっていくのが「肝硬変」です。こうなると細胞の遺伝子が突然変異を起こす可能性が高まり、がん化する確率が非常に高くなります。脂肪性肝炎やウイルス性肝炎が肝がんの因子になるのはこのせいです。

肝がんには“性差”がある?

肝がんの場合、罹患率に男女差があり男性のほうが多いことで知られています。
この理由については、大きく2つ。ひとつは男性の方がアルコールを摂取することが多く、肝硬変、肝がんへと移行することが多いということ。
もうひとつは、肝炎において実は女性の進行のほうが遅いという“性差”の問題です。

なぜ女性の進行のほうが遅いのでしょうか?
その理由は「鉄分」。肝炎の進行は、近年の研究により肝臓に鉄分が沈着していると進行が早くなることが知られています。
しかし女性には生理がありますから、毎月一定量の血液を排出することでからだの中の鉄分も排出しているのです。そのため女性の場合、鉄欠乏性貧血になりがちなのですが、逆に言うと肝臓への鉄分の蓄積は少なくなる。これが肝炎の進行を遅くする理由と考えられています。
なので、女性の場合は閉経後に肝炎の進行が早まるのが観察されています。

肝臓にがんが転移する理由とは

また、肝臓は他の場所にできたがんが転移してできる「転移性肝がん」が多いことでも知られています。
これはなぜなのでしょうか?
がんの多くは、人間の“お腹”の中にできますよね。発生率の高い代表的ながんを挙げてみると肺がん、胃がん、大腸がん、肝がん、膵がん……“消化器のがん”が多いことにお気づきでしょうか。
第5回で、肝臓には多くの血液が流れ込んでいることをお話しました。また、これらのがんができる消化器は、それぞれが近い場所に密集していますね。そのため、がんが血管を食い破り、がん細胞が血液に侵入すると、門脈から肝臓に流れこむ可能性が非常に高くなります。
肺よりも肝臓のほうが血流は多く、また肝臓は栄養を作り出す製造工場でもありますから栄養が豊富です。がん細胞にとって非常に居心地がいい場所だと言えるでしょう。これが肝臓にがんが転移しやすい理由なのです。

肝がん、特に原発性肝がんの治療の場合、どんな治療方法を選択できるかは肝臓の状態が大きく関係します。
肝臓の機能を保ちながら、がんを取り除いていかなくてはならない。これが肝がん治療の難しいところなのです。

moriyasu森安史典(もりやす・ふみのり)1950年、広島県生まれ。75年、京都大学医学部卒業後、倉敷中央病院、天理よろづ相談所病院、京都大学医学部附属病院で勤務。米国エール大学への留学を経て、96年、京大助教授となり、2000年より東京医科大学病院消化器内科主任教授(現職)。最先端技術を導入した肝臓疾患の診断、治療に定評がある。09年より瀬田クリニック東京非常勤医師として、がん免疫細胞治療の診療にも取り組む。趣味はゴルフ。(取材時現在)

東京医科大学病院消化器内科ホームページ
http://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/syoukakinaika/index.html
瀬田クリニック東京ホームページ
http://www.j-immunother.com/group/tokyo

同じシリーズの他の記事一覧はこちら