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脇道を目指すなかで 切り開いた 医師の本道 ―本間之夫(東京大学大学院医学系研究科 泌尿器外科学教授)

「人が集まるところ、いわゆる本道は選ばない。銀座通りも1本入った道を歩きます」
こういって本間は笑う。
医師の世界は社会の中心から離れているように見えたから選んだ。
メジャーとはいえない泌尿器科で「放っておかれた病気を探して治療する楽しみ」を見出した。
「困った人を助けるだけ」と本間はいう。
それこそ医師の本道そのものではないか――。

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本間之夫(ほんま・ゆきお)
1953年、京都府生まれ。78年に東京大学医学部医学科卒業後、都立駒込病院、自衛隊中央病院、三井記念病院、東京逓信病院の泌尿器科に勤務する。83年、渡米。ノースウエスタン大学医学部病理学研究員として2年間研鑽を積む。帰国後、88年に東京大学泌尿器科講師となり、2000年、同助教授に。03年に日本赤十字社医療センターに赴任し、泌尿器科部長として診療・研究に当たる。08年、東京大学大学院医学系研究科泌尿器外科学教授に就任。日本泌尿器科学会理事長、日本老年泌尿器科学会理事長、日本間質性膀胱炎研究会代表幹事などを務める。(取材時現在)

 

 

1953年生まれの本間之夫は、今年で63歳。 「あらためて、本道とは違う道を歩んできた人生だった」と振り返る。

京都府北部の舞鶴市。のんびりとした町に生まれた。警察官や医師という職業に「よいことをする人」という漠然とした憧れがあったというが、「それが医師になった理由かと問われると少し違う」という。

高校2年生のときに会社員の父親の転勤で神奈川県に移り住む。翌年、大学受験が訪れた。「一応、 勉強はできましたから、文系か理系、どちらにも進むことができました」と本間。文系を選べば、経営者や政治家を目指して政治・経済と関わり、社会の真ん中で仕事をすることになる。理系ならばメーカーなどで技術職に就き、やはり社会と関わりながら開発に明け暮れることになるだろう。「どちらもやりがいのある仕事ですが、自分のやりたいこととは何かが違うと感じてしまったのです」。

その点、医師は、社会の中心から離れた仕事に見えた。社会全体を一歩引いた目で見られる。そんな気がした。

「社会的地位や思想に関係なく、すべての人間が健康でいたいと願います。それは時代が変わっても同じで、人は医療を必要とし続けるのではないでしょうか」

社会の中心からは距離を置き、人間の根源に触れるような医学の道に惹(ひ)かれた本間青年は、東京大学医学部に入学した。

卒業後、本間は泌尿器科医となり、関連病院を回り、30歳で渡米してがんの研究に専念した。2年間の留学を経た後、34歳で東京大学に戻って外来医長に就任した。

「外来にくる患者さんの多くは、尿漏れやトイレが近いなど、排尿の問題を抱えていました。しかし、当時、尿失禁などは加齢によって起こるものという扱いで、病気と考えられておらず、医療の世界でも研究の対象にすらなっていなかったんです」。本間がこうした課題に取り組み始めた当初は、「東大で尿漏れの研究をするのか」という意見もあったという。しかし、問題を抱えて困っている患者さんが目の前にいるのに、放ってはおけない。本間は外来患者さんと向き合うなかで、しだいにこの問題にのめり込んでいった。

 

同科のスタッフとともに。本間の1週間は多忙だ。火曜と木曜、さらに水曜の午後が手術日。月曜と金曜の午前中は外来で、午後は教授会や会議が入る
同科のスタッフとともに。本間の1週間は多忙だ。火曜と木曜、さらに水曜の午後が手術日。月曜と金曜の午前中は外来で、午後は教授会や会議が入る。

 

人と同じ方向ばかり見ていたら、ときに医師として一番大切なものを見落としてしまうかもしれない。

2000年からは、間質性膀胱炎の治療を開始。強い痛みと頻尿を伴う間質性膀胱炎は、膀胱炎のように尿検査だけで診断できるものではなく、原因不明とされた。

「これも、ほぼ完全に放っておかれていた病気なんです」

本間は、間質性膀胱炎の研究会を立ち上げ、03年に赴任した日本赤十字社医療センターでは、膀胱水圧拡張術を先進医療に申請するなど、診療と研究を続けた。

「それまでの医学は相手にしてこなかったけれど、困っている患者さんがいる病気ときちんと向き合う。100人の医師のうち、たとえ99人が問題視しないテーマであったとしても、私1人くらい問題にする医師がいてもいいと思うんです。これがきっかけで光が当たるようになれば、それはある意味、医師としての『王道』といえるのかもしれません」

手術室のチームと。中央が手術用ロボットの「ダ・ヴィンチ」。「自分が執刀医でなくても手術室に入り、後輩をサポートすることがあります。手術中はあまり口出ししないようにしていますが……」と語る。
手術室のチームと。中央が手術用ロボットの「ダ・ヴィンチ」。「自分が執刀医でなくても手術室に入り、後輩をサポートすることがあります。手術中はあまり口出ししないようにしていますが……」と語る。
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