クローズアップ がんと闘う

脇道を目指すなかで 切り開いた 医師の本道 ―本間之夫(東京大学大学院医学系研究科 泌尿器外科学教授)

「泌尿器の分野は、実は最先端の医療技術がいち早く取り入れられてきた分野なんです」。例えば、内視鏡による診療を初めて行ったのは、1804年に内視鏡を開発したドイツの医師ボッツィニで、膀胱内を見ることが目的だった。近年では、胸腔、または腹腔の内視鏡下手術用ロボット「ダ・ヴィンチ(ダ・ヴィンチ外科手術システム)」を初めて臨床応用したのも泌尿器科だった。

「ダ・ヴィンチは、視野が大きくとれて、細かい作業ができるので、増え続ける前立腺がんの手術などに向いています。傷口が小さく出血量も少なくてすんで、後遺障害も出にくくなります」

膀胱がんに対してBCGを用いる免疫治療の歴史はすでに30年に及び、抗ウイルス作用の強いインターフェロンを固形がん(腎臓がん)に初めて使ったのも泌尿器科だった。

 

東京大学大学院医学系研究科免疫細胞治療学講座の特任教授・垣見和宏氏と意見を交換する本間。他科との連携もがん治療の現場では欠かせない。
東京大学大学院医学系研究科免疫細胞治療学講座の特任教授・垣見和宏氏と意見を交換する本間。他科との連携もがん治療の現場では欠かせない。

 

さらに泌尿器科は、がん免疫細胞治療の分野でも先鞭(せんべん)を付ける。東京大学医学部附属病院では、腎臓がんに対し、樹状細胞ワクチン療法と分子標的薬スニチニブを併用した臨床試験を09年に開始。14年には、その治療結果がアメリカのがん学会誌に掲載されるなど、手応えも十分に感じている。

「これまでのがん治療では、例えばAとBの治療法を比較した場合、Aを受けた患者さんのほうが長く生きたから、AがよくてBがダメだというような判断で治療法を採用してきました。まるで動物実験のように感じませんか。しかも効果の差が際どい場合にもAの方法を取り入れる。それでは殺伐とした個性無視の治療になってしまう。しかし、患者さん自身の細胞を使って、個々に合わせた治療を行う免疫細胞治療は違います。免疫細胞治療によって、殺伐としたがん治療の現場が、変わってくるかもしれません」

本間は、教授となった現在も週に2、3度は手術室に入り、長時間のオペにも挑む。「本間先生は、どんなときも妥協せず、強い指導力を発揮されます」「臨床の現場にいらっしゃるだけで心強い」「投稿前に教授の審査を通すのは論文の受理より手ごわい」と、後輩医師からの信頼も厚い。

本道を嫌う自分が大学病院で教授を務めている。そのことに対して本間は、「上下関係が嫌いで上から決めつけるようなことはしていないつもり。だけど、本当のところ、みんなはどう思っているのかな」と笑う。

「放っておかれている病気にも苦しんでいる患者さんがいる」という本間の切り開いた脇道が、今、多くの医師たちが目指す本道になっている。
(敬称略)

 

登山が趣味の本間。「日本百名山の制覇を目指していますが、王道の富士山が残っています(笑)」。上:77年夏、友人たちと福島県燧ケ岳に登った本間(左端)。右:鹿児島県屋久島にて、78年春。
登山が趣味の本間。「日本百名山の制覇を目指していますが、王道の富士山が残っています(笑)」。上:77年夏、友人たちと福島県燧ケ岳に登った本間(左端)。右:鹿児島県屋久島にて、78年春。

東京大学大学院 医学系研究科泌尿器外科
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1926年、皮膚学教室に開かれた泌尿器科学の講座が前身で、戦後すぐの46年には泌尿器科学教室が創設された。歴史ある同科では、「泌尿器科疾患に悩む患者さんに最善の医療を実践し、かつ、医療の先端を切り開く研究を行う」ことを目標としている。

●問い合わせ
東京大学大学院 医学系研究科・医学部
住所/東京都文京区本郷7-3-1
電話/03-3815-5411(附属病院代表)
HP/www.m.u-tokyo.ac.jp/

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