ドクターコラム:がん治療の現場から

第11回「肝がんの局所治療 “ラジオ波焼灼術” とは?」

2015年10月12日

moriyasu_no11

前回、肝がん治療においては、手術治療と同じくらい局所治療も基本的な治療になっているお話をしました。

今回は肝がんの局所治療のひとつである「ラジオ波焼灼術」について詳しくお話したいと思います。

 

患部に針を刺し、熱を加えてがん細胞を壊死させる「ラジオ波焼灼術」

ラジオ波焼灼術は、太さが1.5mm〜2mmくらいの電極針(細い棒状の金属性医療器具)を肝臓に刺し、通電して発生した熱で腫瘍部分を「焼灼」し壊死させる手法です。針の太さはボールペンの芯くらい、というとわかりやすいでしょうか。長さは20cmくらいで、通電する先の部分は1〜3cm。先端の形状は一本針か、もしくは6本くらいの金属製の芯が放射状に広がって展開するものがあります。
また、一本針を複数刺す「マルチニードル」という術式もあります。

ラジオ波は、電気のようにプラスからマイナスに向かって流れます。
マルチニードルの場合は、複数の針や芯がプラスとマイナスの電極の役割をする構造になっていて、針と針の間にラジオ波を発生させます。一方、先端が一本針の場合や放射線状に広がって展開する針を使う場合、その針自体がプラスの電極になっており、マイナスの電極は太もも部分に貼り、体の中を通電させてラジオ波を発生させる仕組みになっています。

「えっ!体の中を電気が通るの!?」と驚く方もいるかもしれません。しかし、熱が発生するのは針の先端部分のみなので、他の部分が焼けてしまったり感電してしまう心配はありません。
1999年ごろから日本で使われてきたラジオ波焼灼術。余談ですが、放射状に展開する針によるラジオ波の治療を日本で初めて行ったのは私でした。現在では保険適用もされ、肝がんにおける局所治療の代表格となっています。

「焼灼」という言葉のイメージと、実際は少し違う?

治療法の名前に「焼灼」という言葉がついているので、「レーザーみたいに焼くの?」と思う方も多いかもしれません。しかし実際には、ニードルの先端部分の温度は100度ほど。「焼く」というよりは、タンパク質が凝固して細胞が死んでいくので「熱凝固」の方が正しいかもしれませんね。
例えるなら、レーザーによる焼灼が「目玉焼き」だとすれば、熱凝固は「茹で卵」といえばわかりやすいでしょうか。そのままの形で、黒くもならず、それ以上変形もしない。肝臓の中で熱凝固させたがん細胞は、静かにそのまま“死んでいる”壊死状態になりゆっくり吸収されます。

局所治療のメリットは、なんといっても身体的負担が少ないこと。
開腹は行わないため麻酔は局所麻酔ですし、通電時間は一箇所につき大体10〜20分くらい。治療全体でも1時間半から2時間ほどで終わってしまいます。
入院は手術前に大抵1〜2日、手術後に5日。みなさん平均的に1週間でしょうか。「会社の有給を使って入院・手術」という方もよくいらっしゃいます。
また、金額的な負担もそれほど多くはなく、手術費のみだと平均して15万〜20万円です。
日本に上陸して16年でここまで普及したのも、この負担の少なさがあったからでしょう。

ラジオ波焼灼術の場合、まれに「焼き残し」が発生してしまうこともあり、そうなった場合、治療した箇所からの短期間での再発は免れません。
ただ、前回もお話しましたが、肝がんは、臓器内の治療した場所以外のところから再発する“異所再発”が多く、その結果、外科手術とラジオ波焼灼術で最終的な再発率は変わらないというのが実情です。
であれば、なるべくQOLを落とさず治療が続けられるラジオ波焼灼術は、肝がん治療において有効な選択肢だと私は考えています。

次回は、さらに最新の肝がんの局所治療「ナノナイフ」について詳しく説明したいと思います。

moriyasu森安史典(もりやす・ふみのり)1950年、広島県生まれ。75年、京都大学医学部卒業後、倉敷中央病院、天理よろづ相談所病院、京都大学医学部附属病院で勤務。米国エール大学への留学を経て、96年、京大助教授となり、2000年より東京医科大学病院消化器内科主任教授(現職)。最先端技術を導入した肝臓疾患の診断、治療に定評がある。09年より瀬田クリニック東京非常勤医師として、がん免疫細胞治療の診療にも取り組む。趣味はゴルフ。(取材時現在)

東京医科大学病院消化器内科ホームページ
http://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/syoukakinaika/index.html
瀬田クリニック東京ホームページ
http://www.j-immunother.com/group/tokyo