ドクターコラム:がん治療の現場から

第12回 肝がん治療の最先端技術!ナノナイフの可能性

2015年11月2日

 

第12回用1

高電圧によりナノサイズの穴をあけ、細胞だけを壊す!

肝がんにおける局所治療の代表格が前回お話しした「ラジオ波焼灼術」なら、局所治療の最先端技術が「ナノナイフ」です。昨年、臨床研究として国内初のナノナイフによる肝がん治療を私自身が行いましたが、今もっとも可能性を感じている術式の1つです。

ラジオ波焼灼術は、前回お話したように熱で細胞を凝固・壊死させる、いわば「熱的局所治療」ですが、ナノナイフは高圧電流によって細胞に穴をあけて死滅させる治療法です。

ナノナイフの正式名称はIrreversible electroporation (IRE)(=不可逆電気穿孔法)。腫瘍を挟むようにして患部に針を刺し、3,000ボルトという高電圧の直流電流を、1万分の1秒という短時間に流します。これにより細胞内のナトリウムイオンがプラスからマイナスにものすごい勢いで流れ、針の間にあるがん細胞にナノサイズ(1ナノメートル=10万分の1ミリメートル)の小さい穴をあけて死滅させます。 

ナノナイフの治療では、がん細胞だけでなく、電流が流れた個所の正常な細胞にもダメージを与えてしまいます。しかしナノナイフの画期的なところは、血管や胆管、神経などタンパク質の繊維で出来た部分には影響を与えない、というところ。つまり、ダメージをうけるのは細胞部分だけで、血管そのものの構造は保たれるのです。ダメージを受けた血管内皮細胞など、構造が残っている部分の正常な細胞はほどなく再生するため、最終的にがん細胞のみを的確に壊すナノナイフは、がん治療に最適な手法だといえます。

ナノナイフという選択が切り拓く「未来」

 

第12回用2
これまで、腫瘍の発生箇所によっては、ラジオ波焼灼術での治療に適さない場合がありました。例えば太い血管や胆管などがすぐそばにある場合。太い血管がそばにあると、血液によってその周囲の温度が充分にあがらず、がん細胞の焼き残しが生じてしまい、再発につながることがあります。また、肝臓内の胆管が近いと、熱によって損傷を与えてしまいます。しかしナノナイフはこうしたこれまで治療が難しかった場所にも対応できるのです。 

もちろんデメリットもあります。全身麻酔を必要とするため、全身麻酔がかけられない人、心疾患などを持つ人には適用できないことがあげられます。また、まだ日本では公的医療保険適用がされていないため、治療費が高額になってしまうこと。ラジオ波焼灼術の場合は手術費のみだと15万〜20万円が平均ですが、ナノナイフの場合欧米では治療費の平均が100〜150万円になります。入院も含む費用といえ、この金額差はやはり障害になります。ですが、今後の臨床研究が進み、保険が適用になれば、多くの人を救うことができる術式であると考えています。 

ナノナイフによる治療は肝がんだけでなく、膵臓がんでも臨床研究が進められています。膵臓がんは発見が難しく、見つかった時には進行している場合が多い、非常に厳しいがんです。開腹しての手術が難しい場合も多く、ナノナイフでの治療が期待されています。 

さらに将来的に再生医療が発達した暁には、例えば臓器の再生……肝硬変などで肝臓の細胞が機能しなくなっている場合、機能しなくなった肝臓の細胞だけを壊し、iPS細胞などで再生された健康な細胞を移植する。そんな未来がやってくるかもしれませんね。

 

moriyasu森安史典(もりやす・ふみのり)1950年、広島県生まれ。75年、京都大学医学部卒業後、倉敷中央病院、天理よろづ相談所病院、京都大学医学部附属病院で勤務。米国エール大学への留学を経て、96年、京大助教授となり、2000年より東京医科大学病院消化器内科主任教授(現職)。最先端技術を導入した肝臓疾患の診断、治療に定評がある。09年より瀬田クリニック東京非常勤医師として、がん免疫細胞治療の診療にも取り組む。趣味はゴルフ。(取材時現在)

東京医科大学病院消化器内科ホームページ
http://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/syoukakinaika/index.html
瀬田クリニック東京ホームページ
http://www.j-immunother.com/group/tokyo