ドクターコラム:がん治療の現場から

第13回 再発リスクを減らすために。肝がん治療における免疫細胞治療の可能性

2016年1月6日

Men and women who are experimenting

既存治療と免疫細胞治療の併用により、肝がん治療の課題克服を目指す

前回前々回は、肝がんにおける局所治療の代表格である「ラジオ波焼灼術」、さらには最先端技術の「ナノナイフ」について紹介しました。前者は保険適用の治療法として多くの患者さんの治療に使われ、後者は日本では臨床研究の段階ですが、私は今後、肝がん、膵がんなどいくつかのがんで有効な手立てになると期待を寄せています。

しかしながら、肝がん治療の未来を担う取り組みは、これらだけではありません。私は、ある治療法と併用することで再発リスクを抑えられると仮定し、2010年10月からひとつの臨床研究をすすめてきました。それが、患者さん自身の免疫細胞を強化してがんを抑え込もうとする「免疫細胞治療」を組み合わせた治療法です。具体的には、C型肝炎由来の肝がん患者7例(男性3名、女性4名:年齢20~75歳)を対象に、ラジオ波焼灼療法と免疫細胞治療のひとつであるガンマ・デルタT細胞療法を併用し、再発抑制の有効性を評価・検討する臨床研究を実施しました。

この研究ではまず、ラジオ波で大方のがん細胞を殺傷したのちに、免疫細胞治療を行います。というのも、大きくなった固形がんを免疫の力だけで根治させるのは難しく、免疫細胞治療によりがん細胞を減らしても、一方ではがん細胞が増殖する(ふえる)という、イタチごっこになりがちだからです。ですが、局所治療でがん細胞を大きく減らした状態であれば、免疫細胞治療でがん細胞が増えるのを抑えることができると考えました。がん細胞のかたまりを一掃した後、免疫細胞治療を用いて後々再発のもととなる隠れた残党を排除するわけです。

また、ラジオ波などの局所治療後では、がん細胞の死骸が局所に存在するため、それに対して免疫反応が起きやすい状態にあります。このように、一次治療の実施後に行われる治療を「アジュバント療法」と呼びますが、本研究では抗がん剤や放射線と違い、身体に与える副作用が極めて少ない、免疫細胞治療を利用したわけです。

治療では、培養したガンマ・デルタT細胞をまず1回点滴投与し、患者さんの免疫細胞を活性化させたうえでラジオ波焼灼治療を施し、その後、2週間間隔で計5回、再びガンマ・デルタT細胞を投与して、3年間の経過観察を行いました。

一般的に肝がんの術後1年間の再発リスクは30%といわれていますが、過去の研究結果では、肝がんの手術後に再発予防の免疫細胞治療を上乗せした患者さんは、しなかった患者さんに比べて再発率を半分程度に抑えることができたというデータがあります。現在まだ解析作業中ですが、私の研究でも同様の手ごたえを感じています。

副作用が少ない免疫細胞治療は、QOLや活力の維持にも貢献の可能性

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今回の臨床研究以外に、私はこれまでおよそ100例のがん患者さんの免疫細胞治療に関わってきました。そこで強く感じるのは、進行したがんを抱える患者さんの多くが「元気度が改善した」と言われることです。

例えば、ラジオ波焼灼治療の後、5年前から免疫細胞治療を受けている70代男性の肝がん患者さんがいます。この方の場合、局所治療を受けた後に高頻度で再発と治療を繰り返していました。しかし免疫細胞治療を受けるようになってからは、再発する間隔が大きく伸びたばかりか、通常ですと再発を繰り返すたびに悪性度が強くなっていくところ、そういった病態の悪化も見られません。むしろより快活になったほどで、積極的に自身のがんと向き合い、今後も免疫細胞治療を継続していきたいと考えているようです。

肝がんになったり、抗がん剤治療受けると食欲が低下してがんと闘う体力も落ちてしまうのですが、そういったことも軽いようでした。免疫を活性化するということは、こういった効果ももたらすのかという印象を受けました。既存治療との併用、再発予防治療としての活用、QOLや活力を維持しながらの治療など、免疫細胞治療には様々な可能性があるということです。

このように、がんに有効かつ身体に低負担という新たな治療法の研究は日進月歩の勢いで進展しています。今後も、エビデンスの確立も含めて尽力していきますから、ご期待ください。

 

moriyasu森安史典(もりやす・ふみのり)1950年、広島県生まれ。75年、京都大学医学部卒業後、倉敷中央病院、天理よろづ相談所病院、京都大学医学部附属病院で勤務。米国エール大学への留学を経て、96年、京大助教授となり、2000年より東京医科大学病院消化器内科主任教授(現職)。最先端技術を導入した肝臓疾患の診断、治療に定評がある。09年より瀬田クリニック東京非常勤医師として、がん免疫細胞治療の診療にも取り組む。趣味はゴルフ。(取材時現在)

東京医科大学病院消化器内科ホームページ
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瀬田クリニック東京ホームページ
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