ドクターコラム:がん治療の現場から

第14回 がん患者さんへのメッセージ/後輩医師への提言

2016年1月18日

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がんと積極的に向き合うことが治療継続のカギ

これまで、私の仕事の紹介や肝がんの原因、最先端の治療法について紹介してきましたが、私のコラムも今回で最終回を迎えました。最後に、患者さんと後輩医師にメッセージを送り、締めくくろうと思います。

振り返ると、肝がんや膵がん治療に積極的に向き合っている患者さんほど気持ちは前向きで、明るい印象を受けます。寄席で大笑いすると免疫力がアップするという話がありますが、前向きな気持ちは病気の進行にも影響するようですから、そういった心の持ちようは大事だと思います。

ただし、そうなるためには患者さんの自助努力に任せるだけではなく、医師や看護師といった医療従事者のサポートが重要です。医師が悩みに耳を傾け、理解することが助けになると私は信じていますし、患者さんの医療に対する信頼感や治療に対するモチベーションの維持にひと役買うのではないでしょうか。

一方で、治療法の選択は学会のガイドラインに従うだけ、画像診断でわかるからといってロクに触診などの診察もしない、ベルトコンベアのような診察をしたらどうでしょうか?患者さんからすればつらい治療の受けがいが無いばかりか、両者の意思疎通がなければ適切な診療方針も提示できません。

優先すべきは“QOL”で“QOML”ではない

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若い医師は…と紋切型に責め立ててはいけませんが、最近は、患者さんのQOL(生活の質)ではなく、自分自身のQOML=Quality of my life(医師としての自分の生活の質)を優先させる医師や学生がふえているように感じます。

定時で仕事が終わり、夜間は呼び出されず、診療のリスクも少ない…自分の生活を先に考えて、次いで患者さんのQOLを考えるのです。6年間学び、2年間の研修医生活の結果たどり着いた答えがこれだとしたら、非常に残念な話です。そもそも、QOMLのために医師を志したわけではないはずで、矛盾しているのではないでしょうか。外科や内科などメジャーな科に入局すると家に帰れない日が続くなど、厳しい修練に明け暮れますが、命を救うことが医者の本懐であるのなら、それだって明日の糧になります。

国家試験は難しく高度化し、毎年の進級試験もクリアしないといけないなど、医師になるまでの医学部学生の道は険しいのですが、モチベーションを高く持ち続けてほしいものです。学生たちも「命に関わる勉強をしている」と自覚して学んでください。

良い主治医を“見つけに行く”姿勢も求められる

ご自身や身近な方ががんになり、悩んでいる人もたくさんいることでしょう。一人ひとり病状や進行は異なり、置かれる環境も十人十色。そこで戦い続けるには「良い主治医を選ぶこと」、これに尽きます。ネットを利用したり、セカンドオピニオンを受けるなど情報をみずから集め勉強し、自分自身に合った医療機関や医師を探していくことをお勧めします。納得できるパートナーに診てもらうことで治療に対して前向きになり、継続への意思も芽生えます。

2016年4月からは、患者から申し出ることで混合診療が認められるようになる「患者申出療養」の制度も始まる見通しです。これにより、がん治療の選択肢や幅は広がり、その一方でケースによっては費用負担も大きく変わりますから、自ら情報を収集し、選択肢をもつということは益々必要になってくるといえます。

こういった治療に対する積極的な姿勢が、命の手綱を握る時代が来ています。医師は患者さんに寄り添いながら、専門家として正しい情報や選択肢を提供してサポートし、一方で患者さんはお任せの治療を受けるのではなく、情報を集め、自分の価値観に沿った選択を行う。そのように多くの医療現場で、患者さんが納得でき、満足できるがん治療が行われるようになってほしいと思っています。

 

moriyasu森安史典(もりやす・ふみのり)1950年、広島県生まれ。75年、京都大学医学部卒業後、倉敷中央病院、天理よろづ相談所病院、京都大学医学部附属病院で勤務。米国エール大学への留学を経て、96年、京大助教授となり、2000年より東京医科大学病院消化器内科主任教授(現職)。最先端技術を導入した肝臓疾患の診断、治療に定評がある。09年より瀬田クリニック東京非常勤医師として、がん免疫細胞治療の診療にも取り組む。趣味はゴルフ。(取材時現在)

東京医科大学病院消化器内科ホームページ
http://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/syoukakinaika/index.html
瀬田クリニック東京ホームページ
http://www.j-immunother.com/group/tokyo