ドクターコラム:がん治療の現場から

第6回「日本人の気質が消化器系疾患を招く?」

島田英昭(しまだ・ひであき)
東邦大学医療センター大森病院 消化器センター外科教授(食道・胃外科担当)

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前回は、日本人に多くみられる、あるいは増えている消化器系の疾患に触れました。医療の進歩やライフスタイルの移り変わりにより、病気にも大きな変化が起きているというわけです。

日本人には胃や十二指腸の潰瘍が多く見られ、その原因はおもにピロリ菌と痛み止め薬です。そしてストレスを含めて複数の要因が重なることで発生する危険性が高まります。皆さんもなんとなくおわかりでしょうが、日本人は心配性で、同じストレスが加わっても、外国人に比べて必要以上にネガティブに受け取りがちだと言われています。たしかに、結婚式のスピーチを頼まれたからといって、胃に穴があくほど緊張するなんて、我々日本人くらいかもしれません(笑)。

このように潰瘍ができてしまった方は、その後もさらにストレスに注意が必要です。病気の可能性を指摘されると誰もが滅入ってしまいますが、ガラスのハートの持ち主だと、落ち込むあまりタバコやアルコールに走ってしまい、余計に調子を悪化させるなんてことも。逆に、タバコやアルコールを我慢しすぎてストレスを溜め込み、さらに悪化させてしまうということもよくある話です。タバコは百害あって一利なしなので、止めたほうがよいですが、胃潰瘍のことばかり心配しすぎて神経質になるのも逆効果かもしれません(笑)。

主食をお米中心にするだけで、健康は維持しやすい

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私見も含みますが、私は小麦粉中心よりお米中心の食生活のほうが、日本人の健康は維持しやすいと考えています。ローマ帝国時代から欧米人は小麦粉で、日本人は3000年以上前からお米でカロリーを補ってきました。そのため消化器官が米食向きの構造になっていますし、そもそもパンなど小麦粉による食べ物は米食に比べて満腹感が乏しいことから、カロリーを摂りすぎるようです。パン食では、血糖値も急激に上がるため糖尿病管理の観点でもお勧めできません。今後も日本人が欧米人と同じような小麦粉中心の生活を長く続けると、健康への悪影響を無視できないと思います。
日本人に合った健康維持のためには、まずは米食に戻し、さらに理想的なには玄米を食べること。私自身も、白米と混ぜて炊いて食べるようにしています。主食を変えるだけですからさほどコストもかかりません。もしもこのように米食への回帰が全国レベルで起きれば、日本人の健康は結構改善するのではないかと考えています。

消化器系疾患とがんの関係とは?

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いくつか消化器系疾患の原因について述べましたが、これらが本当に怖いのは、がんに結び付く可能性があるためです。

組織は、体内に炎症が起きるとそれを治そうとしますが、修復の過程で遺伝子情報を読み間違えると遺伝子変異が起こりがん細胞につながることがあります。普通ならば、読み取りに失敗すると「アポトーシス」といって細胞が自滅するのですが、そうしたコピーミスが重なると、まれに自滅を逃れた細胞が、がん細胞に変貌してしまうことがあるのです。

ピロリ菌や肝炎ウィルスなど慢性感染症が原因でできた炎症の場合、組織が線維化を起こし、再生の過程で遺伝子修復に失敗して、がん化するというのが典型的なパターンです。肝臓であれば、肝炎ウィルス感染⇒急性肝炎⇒慢性肝炎⇒肝硬変と変化しながら線維化し、最終的に肝がんというプロセスを辿ります。ピロリ菌の感染だと、急性胃炎⇒慢性胃炎⇒胃がんという流れになります。

逆流性食道炎や潰瘍性大腸炎など、病原菌が不在の慢性炎症も、同じように慢性炎症⇒がん化という道筋を通ります。ただし、炎症系疾患からがんになるには、30年~50年と、ウィルスと異なり時間がかかるのが特徴です。例えば、50歳で逆流性食道炎になった場合、食道がんになるとしても80歳になる頃。感染症が誘因となる場合に比べると、より長い時間をかけて、がんになっていくということです。
もちろん、必ずがん化をたどるというわけではありませんが、可能性につながるということです。

このように、一見するとがんとは無関係の疾患でも、放置しておくとがんが発生する危険性は高まります。日本人に多いピロリ感染・肝炎ウイルス感染への対策、ストレスの上手な管理、そして食生活の改善など予防に努め、もし病気になっても早期発見・早期治療に臨めば、がんへの進展も防ぐこともできます。そういったライフスタイルを心がけましょう。

 

shimada_vol.1_02島田英昭(しまだ・ひであき)
東邦大学医療センター大森病院 消化器センター外科教授(食道・胃外科担当)。1984年、千葉大学医学部卒業後、同附属病院第二外科入局。87~91年、同大学院医学研究科博士課程(外科系)、91年~93年、マサチューセッツ総合病院・ハーバード大学外科研究員。97年、千葉大学附属病院助手(第二外科)、02年、千葉大学院医学研究院講師(先端応用外科学)、08年、千葉県がんセンター主任医長(消化器外科)。08年、千葉大学医学部付属病院疾患プロテオミクス寄付研究部門客員教授(消化器外科)、09年10月より、現職へ。胃がんや食道がんの専門医として評価が高い。(取材時現在)

東邦大学医療センター大森病院 消化器センター外科
http://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/gastro_surgery/index.html