コラム:がん治療の現場から

第9回「30分で治療完了のケースも!消化器がん“管腔系”の代表的治療」

島田英昭(しまだ・ひであき)
東邦大学医療センター大森病院 消化器センター外科教授(食道・胃外科担当)

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どんなに生活に気を配っていても、がんになってしまうことはあります。その際は早期治療がもっとも効果的ですが、がんができた部位や進行度合いによってさまざまな治療法があります。今回は消化器がんのうち、食道がん、胃がん、大腸がんといった「管腔系」のがんの代表的な治療方法を紹介しましょう。

 

どんな治療を行うのかは、がんの「深さ」で決まる

食道、胃、大腸と部位は異なりますが、これらのがんは、がん細胞がどれだけ深く周囲の組織に食い込んでいるかで、4つの段階に分けられます。例えば胃がんの場合では、以下の通りです。

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T1:がん細胞が粘膜内または粘膜下層に留まっている
T2:がん細胞が粘膜下層を超えているが、固有筋層に留まっている
T3:がん細胞が固有筋層を超え、漿膜に接している
T4:がん細胞が他の臓器に食い込んでしまっている
T1からT4にかけて進行度が高くなり、T1なら早期胃がん、T2~T4は進行胃がんと判断されます。

がん細胞が粘膜内に留まっている状態の早期がんの場合、原則的に内視鏡でがんを削り取っておしまいです。これを専門的には「内視鏡的粘膜除去術(EMR)」と呼びますが、時間も30分から1時間程度。開腹手術を必要としませんから、患者さんの肉体的な負担も少なくて済みます。

このような、粘膜内に留まっているがんは、がんとはいえ、転移がないためほぼ確実に治すことができます。がん保険でも粘膜内がんの場合には支払対象としないことがあるくらいで、消化器内視鏡領域の専門医であれば誰が施術しても結果は変わらないほどですから、ご安心ください(笑)。

一方、がん細胞が防波堤ともいえる粘膜筋板を超えてしまうと、たとえT1レベルの腫瘍であっても簡単な治療では済みません。比較的軽い場合は、内視鏡を使った「内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)」と呼ばれる施術でがん細胞を切除します。これは先程お話ししたEMRよりも若干手間がかかり、2~3センチのがんだと1時間ほど要することに。身体にも若干の負担がかかりますから、場合によっては全身麻酔で行うこともあります。

さらにT2, T3, T4のレベルまで進行してしまっている場合は、外科手術によって胃の3分の2程度を切除するか、あるいは全部を摘出することになります。T4まで進行していた場合、食い込んだ他の臓器も一緒に取り除ける場合は手術できないこともありませんが、大動脈や気管などにがん細胞が食い込んでしまっていたりすると、残念ながら外科手術は難しく、放射線や抗がん剤を使った治療へ移行することになります。粘膜下層にはリンパ管があり、リンパ節から全身にがん細胞が飛び散る可能性もあります。

がん細胞が粘膜筋板を破っている場合、食道がんだと10~20%、胃がんで5~15%、大腸がんは5~10%前後の確率で転移が見られます。肺や肝臓、脳などに遠隔転移が見られた場合は、もっとも重症のステージになり、根治は厳しいと言わざるを得ません。

 

手軽な内視鏡手術。患者さんには実はスリリング?

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30年ほど前までは食道がんの手術で1割近くの患者さんが亡くなることもありましたが、いまはそれほど恐ろしい手術ではありません。内視鏡治療は通常は全身麻酔ではないため意識は残りますから、患者さんからすると、これはこれで心理的に負担になり、少々スリリングでもあります(苦笑)。よく、内科医は「全身麻酔の外科手術は大変で、局所麻酔の内視鏡のほうが良い」と言いますが、私自身は、実は全身麻酔の方が患者負担は軽減されるのでは?とも思っています。

 

いずれにしても大事なのは、発見が早ければ治療もシンプルになり、体の負担も少ないということ。進行がんになる前に、定期検診などを活用してがんのリスクを減らすように気をつけていただきたいところです。それでは次回は、胆のう、膵臓といった「実質臓器系」の消化器がんの治療法について紹介します。

 

shimada_vol.1_02島田英昭(しまだ・ひであき)
東邦大学医療センター大森病院 消化器センター外科教授(食道・胃外科担当)。1984年、千葉大学医学部卒業後、同附属病院第二外科入局。87~91年、同大学院医学研究科博士課程(外科系)、91年~93年、マサチューセッツ総合病院・ハーバード大学外科研究員。97年、千葉大学附属病院助手(第二外科)、02年、千葉大学院医学研究院講師(先端応用外科学)、08年、千葉県がんセンター主任医長(消化器外科)。08年、千葉大学医学部付属病院疾患プロテオミクス寄付研究部門客員教授(消化器外科)、09年10月より、現職へ。胃がんや食道がんの専門医として評価が高い。(取材時現在)

東邦大学医療センター大森病院 消化器センター外科
http://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/gastro_surgery/index.html