がんと免疫

肺がん治療の最前線

監修:高橋和久(たかはし・かずひさ)
順天堂大学大学院 医学研究科 呼吸器内科学教授

高コストやバイオマーカーをクリアするための研究も進行中

免疫の働きを復活させる免疫チェックポイント阻害剤には、大きな期待がかかる一方、いくつか問題点もあります。非常に高価であることもその1つ。例えば、体重60キロの男性の場合、1年間にかかる薬代は約3500万円(※4)。非小細胞肺がんの患者さんは多いため、国全体では、薬代だけで年間1兆円くらいかかってしまいます。健康保険制度が適用されるため、患者さん個人の負担はそれほど大きくはありませんが、このまま様々ながんに使われるようになると、健康保険制度自体が崩壊しかねません。

また、今のところ免疫チェックポイント阻害剤に関する長期の観察データがないため、薬剤耐性があるかどうかについては分かっていません。ただ、治験の途中で効かなくなる患者さんがいるので、耐性の問題はあると思われます。

イレッサなどと同様に、免疫チェックポイント阻害剤にも、間質性肺炎などの副作用が挙げられ、したがって、膠原(こうげん)病やリウマチ、間質性肺炎などの患者さんにはこの薬が使えません。

イレッサなら投与した患者さんの7〜8割に効きますが、オプジーボの奏効率は2割くらい。つまり8割の人は、「効かないかもしれない」のに、高価な薬を投与されることになります。他にいい薬がないわけですから、医師も患者さんも、この薬にかける以外にないということになります。

効き目のない治療を続けることは、患者さんはもちろん医師にもつらいことです。そこで薬剤の開発に伴い、この薬がどんなタイプのがんに有効なのかを予測するための指標「バイオマーカー(※5)」の研究も不可欠です。現在、こうした課題についても世界中で研究が進められています。

 

※4 2017年2月より50%引き下げ。
※5 医学や薬学の分野では、人間の体の状態を客観的に測定・評価するための指標として、この言葉を使います。血液やその他の体液、組織中にあるタンパク質、脂質、糖、アミノ酸などの物質を調べた検査値や画像データを指し、病気診断や治療だけでなく、医薬品開発にも活用されています。

 

がん細胞を攻撃する免疫細胞としては、「キラーT 細胞」に代表される「Tリンパ球」があり、私たちの体は、これらの免疫細胞によって健康に保たれている。ところが多くのがん患者さんの体内では、健康な人に比べてこれらの免疫細胞が減少していることが分かっている。  進行肺がんの薬として承認された免疫チェックポイント阻害剤は、先述のようにがんの攻撃防御をはずして、患者さんの免疫の力でがんを治療する薬。このため、患者さんのリンパ球の数がもともと少なかったり、疲弊していたりすると、この薬を用いてもがんを十分に攻撃することができない。  そうした場合には、患者さんの体外で増殖・活性化したリンパ球を投与することで、免疫チェックポイント阻害剤の効果を引き出す方法も考えられている。ただし、副作用の発現なども報告されているため、まずは安全性が確保された臨床研究として行うことが望まれる。
がん細胞を攻撃する免疫細胞としては、「キラーT 細胞」に代表される「Tリンパ球」があり、私たちの体は、これらの免疫細胞によって健康に保たれている。ところが多くのがん患者さんの体内では、健康な人に比べてこれらの免疫細胞が減少していることが分かっている。
 進行肺がんの薬として承認された免疫チェックポイント阻害剤は、先述のようにがんの攻撃防御をはずして、患者さんの免疫の力でがんを治療する薬。このため、患者さんのリンパ球の数がもともと少なかったり、疲弊していたりすると、この薬を用いてもがんを十分に攻撃することができない。
 そうした場合には、患者さんの体外で増殖・活性化したリンパ球を投与することで、免疫チェックポイント阻害剤の効果を引き出す方法も考えられている。ただし、副作用の発現なども報告されているため、まずは安全性が確保された臨床研究として行うことが望まれる。

 

●コラム  新薬に多い間質性肺炎の副作用
2002年に「副作用が少ない夢の新薬」として日本で発売された分子標的薬のイレッサは、たちまち多くの肺がん患者に投与されたが、副作用の間質性肺炎で多数の死者を出して大きな問題となった。間質性肺炎は非常に治療が難しい病気。追跡調査の結果、「間質性肺炎がある」「喫煙歴がある」「体力が低下している」などの患者さんがイレッサを服用すると重い副作用を起こしやすいことが分かった。このため、現在では、服薬中に間質性肺炎を発症したら、ただちに投与を中止するなど、使用上の様々な制限、注意喚起が行われている。また、免疫チェックポイント阻害剤でも同様に間質性肺炎が起こる可能性がある。

 

▶各薬剤の登録商標は以下の通り。
イレッサ ®、カプレルサ ®はアストラゼネカ ユーケイ リミテッド社、タグリッソ ®はアストラゼネカ株式会社、タルセバ ®はオーエスアイ・ファーマスーティカルズ社、ジオトリフ ®は日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社、ザーコリ ®はファイザー株式会社、アレセンサ ®は中外製薬株式会社、オプジーボ ®は小野薬品工業株式会社 ブリストル・マイヤーズ スクイブ社、アバスチン ®はジェネンテック社、アリムタ ®は日本イーライリリー社の登録商標です。

vol10_meneki_08監修:高橋 和久
順天堂大学大学院 医学研究科 呼吸器内科学教授
たかはし・かずひさ●1985年、順天堂大学医学部卒業。94年から米国ハーバード大学医学部附属マサチューセッツ総合病院がんセンターに留学。2005年に順天堂大学医学部呼吸器内科学講座教授。呼吸器一般と肺がんが専門。主な著書に「世界で一番やさしい肺がん」(エクスナレッジ)など。日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビ出演も多数。
(取材時現在)

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