膵がんは、医師によって治療法の見解が異なる場合があります。何軒か医療機関を訪ねてください。
睡眠時間は毎日4時間。「3時間だとなかなか起きられない。枕元に三つ目覚まし時計をおいて、やっと血流がまわりはじめて目が覚めるという感じですね」。病院から約4㎞離れた金沢文庫の駅から、毎朝ジョギングで通う。50代の現在もスポーツマンだ。
「走ると脳がクリアになる感じですね。この間に、研究論文のアイデアや懸案事項の解決策が生まれることがありますから」

ここ10年で膵がんの手術は大きく進歩した。手術の前に抗がん剤を投与し、ランダムに広がっているがんの先進部をおさえ、切除しやすいがんの形にする。こうすることによって、取り除きにくいがんのリスクを軽減するのだ。
「2カ月、3カ月といった抗がん剤投与の期間をおくことによって、事前に患者さんの転移の状態を、しっかりと見極めてから手術を行うことが可能になりました」
手術前、もしくは手術後の抗がん剤の投与によって、術後の5年生存率は、それ以前の15%から25%へと向上した。
近年、膵がんの治療には「さらに大きな進歩が見えてきた」と、遠藤は語る。その一つは、最先端の3D-CTやPET-CTといった画像診断が急速に発達したこと。これによって、手術前に転移の状態や、がんの形態が分かるようになった。二つ目は、内視鏡やロボットを使った腹腔鏡手術の進歩。
「これによって手術による患者さんの身体への負担が軽減されます。身体へのダメージが少なければ、回復もより早くなります」
そして三つ目は、抗がん剤、放射線、免疫細胞治療、栄養療法などを組み合わせた術後の補助療法の研究・開発が積極的に行われていることだ。

治りにくいといわれる膵がんの治療は、確実に進歩しつつある。「近い将来、5年生存率25%という数字は、もっと向上します」。そして遠藤は、「悪いものはていねいに切除して、患者さんの身体に負担のかからないきれいな手術をしたい」と語る。
「膵がんについては、医師によって見解が異なる場合があります。いくつかの医療機関を訪ねることをおすすめします。私たち医師は困難な道だからこそ、希望の光を求めて探究するのです」
そうした父の背中を見て育ったからだろう。遠藤の長男は、現在、外科医になるための一歩を踏み出している。
(敬称略)