がんと闘う名医

完治の難しいがんだからこそ最善の手術を行い希望の光を見出したい―遠藤格(横浜市立大学附属病院 消化器・肝移植外科診療科部長)

2014年3月11日

膵がんは、医師によって治療法の見解が異なる場合があります。何軒か医療機関を訪ねてください。

睡眠時間は毎日4時間。「3時間だとなかなか起きられない。枕元に三つ目覚まし時計をおいて、やっと血流がまわりはじめて目が覚めるという感じですね」。病院から約4㎞離れた金沢文庫の駅から、毎朝ジョギングで通う。50代の現在もスポーツマンだ。

「走ると脳がクリアになる感じですね。この間に、研究論文のアイデアや懸案事項の解決策が生まれることがありますから」

(右)「ジョギングにはまったきっかけ」という、ナイキのストップウォッチ。ネット上の見知らぬ同世代とも記録を競うことができる。(左)毎朝4㎞を約25分で走る。「学会で訪れたパリでもセーヌ川のほとりを走りましたよ」とほほ笑んだ。
(右)「ジョギングにはまったきっかけ」という、ナイキのストップウォッチ。ネット上の見知らぬ同世代とも記録を競うことができる。(左)毎朝4㎞を約25分で走る。「学会で訪れたパリでもセーヌ川のほとりを走りましたよ」とほほ笑んだ。

ここ10年で膵がんの手術は大きく進歩した。手術の前に抗がん剤を投与し、ランダムに広がっているがんの先進部をおさえ、切除しやすいがんの形にする。こうすることによって、取り除きにくいがんのリスクを軽減するのだ。
「2カ月、3カ月といった抗がん剤投与の期間をおくことによって、事前に患者さんの転移の状態を、しっかりと見極めてから手術を行うことが可能になりました」

手術前、もしくは手術後の抗がん剤の投与によって、術後の5年生存率は、それ以前の15%から25%へと向上した。

近年、膵がんの治療には「さらに大きな進歩が見えてきた」と、遠藤は語る。その一つは、最先端の3D-CTやPET-CTといった画像診断が急速に発達したこと。これによって、手術前に転移の状態や、がんの形態が分かるようになった。二つ目は、内視鏡やロボットを使った腹腔鏡手術の進歩。

「これによって手術による患者さんの身体への負担が軽減されます。身体へのダメージが少なければ、回復もより早くなります」

そして三つ目は、抗がん剤、放射線、免疫細胞治療、栄養療法などを組み合わせた術後の補助療法の研究・開発が積極的に行われていることだ。

消化器・肝移植外科診療科のスタッフとともに。「非常に過酷な外科医という道を進んでいる若い世代がこれからも仕事を続けていくためには、僕たちの世代が大きな声を上げて、待遇を改善していくよう働きかけていく必要がある」と遠藤。
消化器・肝移植外科診療科のスタッフとともに。「非常に過酷な外科医という道を進んでいる若い世代がこれからも仕事を続けていくためには、僕たちの世代が大きな声を上げて、待遇を改善していくよう働きかけていく必要がある」と遠藤。

治りにくいといわれる膵がんの治療は、確実に進歩しつつある。「近い将来、5年生存率25%という数字は、もっと向上します」。そして遠藤は、「悪いものはていねいに切除して、患者さんの身体に負担のかからないきれいな手術をしたい」と語る。

「膵がんについては、医師によって見解が異なる場合があります。いくつかの医療機関を訪ねることをおすすめします。私たち医師は困難な道だからこそ、希望の光を求めて探究するのです」

そうした父の背中を見て育ったからだろう。遠藤の長男は、現在、外科医になるための一歩を踏み出している。

(敬称略)

201404syozo5横浜市立大学附属病院
神奈川県にある唯一の公的医育機関附属病院として、「心から頼れる病院」、「高度でかつ安全な医療」を理念とする。早期がんには早期の社会復帰を目指して可能な限り機能を温存。肝臓・胆道・膵臓の高難度手術は、画像診断の最先端3D-CTやPET-CTなどの最新技術を用いて、がん細胞が残らない手術を追究。全国的に見ても、非常に良好な治療成績を得ている。

●問い合わせ
住所/横浜市金沢区福浦3-9
電話/045-787-2800
HP/www.yokohama-cu.ac.jp
前のページへ

同じシリーズの他の記事一覧はこちら