胃癌・食道癌・大腸癌

胃がんが抗がん剤でも治る時代 ― 抜群の治療効果で注目されるオプジーボが胃がんに適応拡大

大西正夫(おおにし・まさお)
医事ジャーナリスト

2018年3月7日

2014年以降、悪性黒色腫と呼ばれる皮膚がんや、肺がん、腎臓がんなどの治療薬として承認されてきた分子標的薬のオプジーボ(一般名ニボルマブ)。末期がんに画期的な治療効果が期待できると同時に、高い薬価で話題を呼んだ。それが2017年9月、胃がんに対しても適応が拡大された。

がんの3大療法の1つ、化学療法は、主に抗がん剤による治療を意味するが、「胃がんは抗がん剤では治らない」と思っている人が、患者さんや医療関係者の間では少なくない。ひと昔前なら、確かにそのように思われても仕方がなかった。だが、今もそういえるだろうか。

胃がんの有力な治療の選択肢はもっぱら手術とされてきたが、2010年代に入り、そのイメージは変わりつつある。がん細胞に特有の分子をピンポイントで攻撃する分子標的薬の登場(表1)が、手術不能の進行がんや再発がんの治療における選択肢を増やし、よりよい延命効果を生んで、患者さんにがんとの「共存」をもたらそうとしている。

オプジーボは推奨度もエビデンスも最高ランク

そこで、胃がん薬物療法の新たな展開を見てみると —— 。

オプジーボが胃がん治療の新たな選択肢として注目を浴びたきっかけは、2017年1月に米国臨床腫瘍学会で発表された日本・韓 国・台湾3カ国による無作為抽出臨床試験の結果だった。切除不能・再発胃がんの患者さんを対象としたこの試験では、オプジーボ投与群と生理食塩水によるプラセボ(偽薬)群の主要評価項目「全生存期間 (OS)」を比較した。すると、前者が有意な延長を示し、死亡リスクを37%低減、OSの中央値はオプジーボ群5・32カ月、プラセボ群4.14カ月となった。12カ月後の全生存率は、前者が26.6%、後者10.9%であった。OSの中央値というのは同じ疾患の集団で50%(半分)の患者さんが亡くなるまでの期間を指す。完治が難しいがんの場合、短期間で亡くなる人が多く、初めは急な下降カーブを描くが、その後はゆるやかになり、長く生きる患者さんもいる。

日本胃癌学会は、現行の『胃癌治療ガイドライン』を2018年に第5版として改訂し、切除不能・再発胃がんに対する3次治療(1次から2次までの治療で効果がない場合の最終治療)で、オプジーボを推奨度、エビデンス(科学的根拠)ともに最高ランク(1A)とした。また、オプジーボの薬価は2018年度の診療報酬改定で、100mg当たり約36万5千円から約24%下げ、約28万円に引き下げらた。14年に皮膚がんのメラノーマ治療薬として保険収載された当初の約73万円から6割もの引き下げになる。

分子標的薬と従来型抗がん剤との併用など、他にも胃がんに有効な薬物療法は増えている。筆者の身近に16年9月、84歳でステージⅣのスキルス胃がんと診断され、10月に胃の全摘手術を受けた女性がいる。術後は従来型の経口抗がん剤ティーエスワンを再発予防のために服用し続けてきた。当初はそれなりの副作用もあった。だが、現在はそれも落ち着き、通院の傍ら趣味に打ち込む。再発の不安を抱えつつも、1日1日を大切に、がんとの「共存」を果たしている。

化学療法の草分けの1人、東京都立駒込病院の佐々木常雄名誉院長は、患者さんや医療関係者が「胃がんは抗がん剤では治らない」と拒否するのは「非常にもったいない」と発言してきた。この言葉には、胃がんとの向き合い方に一石を投じる重みがある。

※オプジーボ®はブリストル・マイヤーズ スクイブ社 小野薬品工業株式会社、ティーエスワン®は大鵬薬品工 業株式会社、ハーセプチン®はジェネンテック社、サイラムザ®は日本イーライリリー株式会社の登録商標です。

大西正夫(おおにし・まさお)
医事ジャーナリスト(取材時現在)

同じシリーズの他の記事一覧はこちら