胃癌・食道癌・大腸癌

胃がん治療の最前線 〜新たな分子標的薬や免疫治療薬が登場

監修:瀧本 理修(たきもと・りしゅう)
医療法人社団 滉志会 瀬田クリニック新横浜院長

2017年5月31日/2018年6月22日更新

 

胃がんの罹患率・死亡率・生存率

日本人の胃がんの罹患数は約13万人(男性9万人、女性4万人)で、日本のがん罹患数のトップです。一方、死亡者数は毎年約5万人。かつて「世界一の胃がん大国」と呼ばれた日本ですが、最近は罹患率、死亡率ともに大きく減少しています。

 

高齢化が急速に進み、高齢者ほどがんの死亡率が高いため、ほとんどのがんの死亡率が上昇傾向にある。一方、年齢構成の変化の要因を除いた年齢調整死亡率で見ると、生活環境の改善や医療技術の進歩で多くのがんの死亡率が低下傾向にあることが分かる。その中でも、胃がんの低下傾向は突出している。

 

胃がんの5年相対生存率。ステージⅠ97.2%、ステージⅡ65.7%、ステージⅢ47.1%、ステージⅣ7.2%
※相対生存率とは、がんと診断された人の5年後の生存率と、日本人全体で性別と年齢が同じ人の5年後の生存率とを比べた割合。100%に近いほど治療で命を救えるがんであることを意味する。

 

胃がんの原因としては、喫煙、塩分の多い食生活、ピロリ菌の感染などがあげられますが、食生活の欧米化が進んで塩分の少ない食事が当たり前になったことや、ピロリ菌の感染者が減っていること、さらに喫煙率の低下などが罹患率の低下の理由と考えられます。

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胃がんの検査

日本人の胃がんの死亡率の低下に貢献しているのは、胃がん検診です。世界に先駆けて検診制度が導入され、胃がんの早期発見、早期治療ができるようになったことが大きいといえます。

特に早期の胃がんについては、カメラを通じて胃壁などが目視できる内視鏡検査(胃カメラ)によって見つかるケースが多く、バリウム検査では見つけることが難しいといいます。なお、内視鏡検査で胃のポリープが見つかることがよくありますが、大腸のポリープと違って、胃のポリープが、がん化することはほとんどありません。

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胃がんのステージ・進行度別治療法

リンパ節転移がなく、がんが粘膜(上皮)内に限局しているⅠA期なら内視鏡治療ですむが、それ以上に深く広がっている場合は外科療法が標準。術後、再発や転移の予防ために化学療法を行う。しかし、遠隔転移がある場合は、手術はせずに化学療法や放射線療法などを行う。

 

胃がん治療は、遠隔転移がなければ手術になります。がんが胃の粘膜内にとどまっているⅠA期なら内視鏡手術が可能ですが、それ以外は開腹手術となります。遠隔転移のあるⅣ期の治療法は、抗がん剤だけで行われます。

なお、粘膜表面にあまり変化を起こさないスキルス胃がんは早期発見が難しく、見つかった時点ではかなり進行していることが多い、やっかいながんです。

治癒を考えるなら、現在のところ、抗がん剤だけでは困難です。化学療法には、Ⅱ期、Ⅲ期のがんを対象に、術後の目に見えない微小ながんの再発防止を目的とした「術後補助化学療法」や、延命・症状緩和などを目的とした「緩和的化学療法」があります。

「手術単独と、術後に抗がん剤のTS-1を処方した場合とを比較した日本臨床腫瘍研究グループの試験では、3年後の生存率が、手術単独群では70パーセント、TS-1群で80パーセントとなり、術後補助化学療法が有効であることが証明されました。

まだ試験的な段階ですが、治癒を目指して手術前に抗がん剤を投与して遠隔転移を消滅させ、ステージをⅣ期からⅢ期やⅡ期に落としてから手術を行う術前補助化学療法も臨床試験で行われています」


ボールマン分類とは、進行胃がんの形態を肉眼で見たときの分類法で、ドイツの病理学者、R・ボールマンが1901年に提唱した。1型から4型まであり、胃がんだけでなく大腸がんの分類にも用いられる。
キーワード 「スキルス胃がん」
胃がんの一種である「スキルス胃がん」は進行が速く、粘膜層の下で広がって粘膜表面には異常が出にくいため、検診などで発見されにくい。胃壁が硬化して特徴的な胃の動きをするので、胃カメラよりもバリウム検査のほうが見つけやすいという指摘もある。スキルス胃がんは胃がんの約10%を占め、男性よりも女性に、それも比較的若い女性に多い。発見時すでに腹膜播種や広範囲のリンパ節転移が見られるケースが多く、予後もよくないので、早期発見が非常に大切だ。



胃がんの抗がん剤治療・分子標的治療薬

2011年から、がん細胞の特異的な性質をねらって攻撃する「分子標的治療薬」の1つ、トラスツズマブ(商品名ハーセプチン)が治療に使えるようになりました。トラスツズマブは、がん遺伝子のHER2(ハーツー)が過剰に現れている患者さんによく効くので、治療の前にHER2検査を行い、HER2陽性の患者さんに処方されます。

この薬は、一番最初に処方される1次治療薬として使えますが、残念ながらHER2が陽性となる患者さんは2割くらい。陰性の場合の1次治療はシスプラチンとS-1製剤の併用が第1選択になります。

2015年には、がんの血管新生を阻害する分子標的治療薬ラムシルマブ(商品名サイラムザ)が登場しました。この分子標的治療薬は1次治療の効果がなくなった患者さんに対し、2次治療として、パクリタキセル(商品名タキソール)との併用で投与されます。ラムシルマブとパクリタキセルを併用した国際共同臨床試験では、生存期間に改善が認められました。

これ以外にも、レゴラフェニブ(商品名スチバーガ)やアキシチニブ(商品名インライタ)など、様々な分子標的治療薬による胃がん治療が試みられていますが、現在日本で使えるのは、トラスツズマブとラムシルマブの2つだけです。

他に、レゴラフェニブやアキシチニブが病勢を安定化させたとの報告もありますが、薬の効果が急減するケースも認められ、単独より、他の抗がん剤との併用などのほうがいいかもしれません。


胃がんの免疫治療(免疫チェックポイント阻害薬)

今、がん治療の世界では、がん細胞の働きによって活力を失ってしまった免疫細胞を再活性化してがん細胞を攻撃させる「チェックポイント阻害薬」が大きな話題となっています。

がんを攻撃するキラーT細胞には、免疫活動を活発にするアクセルの機能と逆におとなしくさせるブレーキの機能の両方が備わっています。一方、がん細胞は、T細胞の攻撃から逃れるために、T細胞のブレーキの機能を作動させる機能をもっています。免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞がこのブレーキに触れることができないようにブレーキにカギをかけてしまう働きをします。

様々ながんに対して、世界中で競うように免疫チェックポイント阻害薬の臨床試験が行われています。日本ではすでに皮膚がんや肺がん、腎細胞がん、ホジキンリンパ腫などで承認されていた免疫チェックポイント阻害薬のニボルマブ(商品名オプジーボ)が、2017年胃がんにも適用拡大されました。

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日本胃癌学会は、『胃癌治療ガイドライン』を2018年に第5版として改訂し、切除不能・再発胃がんに対する3次治療(1次から2次までの治療で効果がない場合の最終治療)で、オプジーボを推奨度、エビデンス(科学的根拠)ともに最高ランク(1A)としています。

患者数、死亡者数、ともに減少しつつあるとはいえ、日本において、まだまだ患者さんの多い胃がんについては、これからも最新の治療に関する研究・開発が待たれます。

▶ハーセプチン®はジェネンテック社、サイラムザ®は日本イーライリリー社、タキソール®はブリストル・マイヤーズ スクイブ社、スチバーガ®はドイツ・バイエル社、インライタ®はファイザー社、オプジーボ®は小野薬品工業株式会社 ブリストル・マイヤーズ スクイブ社の登録商標です。

瀧本 理修
医療法人社団 滉志会 瀬田クリニック新横浜院長たきもと・りしゅう●1989年、産業医科大学卒業。同年、札幌医大医学部内科学第4講座に入局。98年、ペンシルバニア大学ハワードヒューズ研究所研究員。札幌医大助手(2001年)、同講師(05年)、同腫瘍診療センター化学療法管理センター化学療法管理室長(08年)を経て、14年、同腫瘍血液内科学講座准教授に。16年より現職。趣味はマラソン、読書。(取材時現在)

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