コラム:がん治療の現場から

第12回「免疫細胞治療はがん治療のインフラ的存在になる」

島田英昭(しまだ・ひであき)
東邦大学医療センター大森病院 消化器センター外科教授(食道・胃外科担当)

前回、さまざまながん治療の新しい治療についてお話ししてきましたが、今回は免疫細胞治療についてです。私自身もライフワークとして長く取り組んでいる分野でありますので、私なりの考えをお伝えしていきたいと思います。

 

免疫細胞治療が将来のがん治療を支える

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免疫細胞治療は、がん患者さん自身の免疫細胞を、体外で増殖・活性化したうえで再び体に戻し、強化された自分の免疫力でがんと闘う先進的な治療法ですが、私はこうした治療の研究・臨床試験にも積極的に取り組んでいます。

なぜ、臨床試験を行うのか。その理由は2つあります。

まずひとつの理由は、治療費の問題です。現在、免疫細胞治療は保険適用になっておらず、治療費は全額自己負担となってしまうのが現状です。臨床試験を進めて科学的エビデンスが蓄積されれば、保険適用の道も開けてくるはずです。

もうひとつの理由は、免疫細胞治療が、がん治療においてインフラ(基盤)的な役割を担えると考えているからです。免疫細胞治療は、患者さん自身の体内にある「免疫細胞」を使ってがん細胞を攻撃するため、副作用が出にくいとされているのが特徴。治療による負担が少なく、がんに対抗する体の力を高めることが出来ますので、免疫細胞治療を続けながら、新たな薬や治療法が現れたときに、併用することで相乗効果を狙うことも十分可能です。

これから先、免疫細胞の培養速度を加速させる技術や、全自動で培養できるようになるなどの技術を効率化できれば、さらに費用を軽減できる可能性もあり、認知度も高まっていくはずです。がん治療全体の中に免疫細胞治療を上手く組み込むことで、副作用の心配がある治療を相対的に減らすなどの工夫ができると思っています。がん治療を受ける患者さんの基礎的体力をあげるという意味でも、これからも力を注ぎたい領域です。

 

免疫本来の力を引き出す新薬、「免疫チェックポイント阻害剤」

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免疫細胞治療と他の薬との組み合わせの話題が出たので、最近注目されている「免疫チェックポイント阻害剤」のお話をしておきましょう。免疫チェックポイント阻害剤とは、がん細胞が免疫の働きを弱めようとするのを防ぐための薬です。そのひとつが、前回でも少しご紹介した抗PD-1抗体薬「オプジーボ®(※)」です。

通常、体内では「T細胞」という免疫細胞が中心となり、がん細胞を攻撃します。ところが、がん細胞も免疫に抵抗する能力を持っているのです。がん細胞は免疫細胞からの攻撃を避けるため、自身の表面にある「PD‐L1」という物質をT細胞の「PD‐1」という受容体に結合させます。すると、この結合によってT細胞に対して攻撃を止める信号が発信され、T細胞はがんへの攻撃をやめてしまうのです。

そこで活躍するのがオプジーボ®です。この薬はがん細胞が免疫細胞と結合して、免疫細胞の機能を低下させようとする作用を阻止して、免疫細胞が、十分にがん細胞を攻撃できるように作用します。これにより、免疫は本来の力でがん細胞を攻撃できるのです。オプジーボ®はあくまでもサポート役、実際にがん細胞を攻撃するのは、患者さんの免疫細胞ですから、本当にスゴイのは、人間の体だという見方もできます(笑)。新しい組み合わせによる治療は、まず安全性確認から慎重に行う必要がありますが、オプジーボ®は免疫細胞治療との親和性は高いと思われますので、今後の研究の進展に期待したいところです。

※「オプジーボ®」は小野薬品工業の登録商標です。

 

shimada_vol.1_02島田英昭(しまだ・ひであき)
東邦大学医療センター大森病院 消化器センター外科教授(食道・胃外科担当)。1984年、千葉大学医学部卒業後、同附属病院第二外科入局。87~91年、同大学院医学研究科博士課程(外科系)、91年~93年、マサチューセッツ総合病院・ハーバード大学外科研究員。97年、千葉大学附属病院助手(第二外科)、02年、千葉大学院医学研究院講師(先端応用外科学)、08年、千葉県がんセンター主任医長(消化器外科)。08年、千葉大学医学部付属病院疾患プロテオミクス寄付研究部門客員教授(消化器外科)、09年10月より、現職へ。胃がんや食道がんの専門医として評価が高い。(取材時現在)

東邦大学医療センター大森病院 消化器センター外科
http://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/gastro_surgery/index.html

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